症状固定とは
後遺障害とは、「傷害が治った後に、身体にのこされた将来においても回復が困難と見込まれる肉体的又は精神的毀損状態のこと」ですが、ここでいう「傷害が治った」とは、「症状固定となったとき」をさします。
症状固定とは、一定期間の適切な治療を加えたにもかかわらず、これ以上治療の改善効果が期待できない時期または状態のことをさします。症状固定を理解する上で『賠償科学概説-医学と法学との融合-(日本賠償学会編/民事法研究会/2013)』の141頁~143頁の溝辺克己先生の解説が参考になります。この症状固定という概念は、医学の世界のものではなく、症状固定というのは、実は賠償用語、保険用語であるといわれています。
さて、法律関係においては、症状固定の時期は法的賠償解決を行うためにとても重要な基準となります。
まず、症状固定に至るまでの被害者の治療費について、加害者が負担をするのが一般的です。また、症状固定の前後により、加害者に請求できる損害の項目が異なってきます。症状固定前の損害は、傷害による損害です。例えば、傷害に対しての治療費であったり、休業損害であったり、慰謝料についても傷害に対するもの、ということになります。他方、症状固定後の損害は、後遺障害による損害ということになります。後遺障害が残存したことによる将来の所得の減少(逸失利益)であったり、後遺障害に対しての慰謝料などが該当します。このように、交通事故の損害賠償において、症状固定の時期というのは、被害者の損害額の算定に大きな影響を与えることになります。
また、保険診療を選択し健康保険等を使用していた場合には、被害者本人のみに限らず、健康保険等の保険者も大きな影響を受けることになります。なぜなら、症状固定の時期と保険者が加害者に求償のできる範囲とは密接な関係にあるからです。
このように、症状固定は、法的賠償解決を行うために用いられる重要な基準日となります。